yuzuponsuki’s blog

ゆずポン酢が好きです

上橋菜穂子『鹿の王 水底の橋』

上橋菜穂子『鹿の王 水底の橋』角川文庫 令和2年

新刊が出ているとも知らず、本屋で見つけて、ほくほくしながら帰ってきました。やっぱり夏は、扇風機と、麦茶の入ったグラスに、物語の取り合わせが最高です。

守り人シリーズから、獣の奏者、鹿の王とずっと読み続けていた著者の世界観に没頭してしまうと、あっという間に読み終わってしまいました。
文化人類学を修めている著者の紡ぎ出す世界の緻密さには、毎回、異世界に没入してしまうかのような感覚を覚えます。そして、政治家、専門家、市井の人等として登場する人々の生活や努力の描写に、ままならない現状に負けない勇気をもらいます。

鹿の王の続編となる本作も、医療をテーマとしています。
被侵略文明の医療技術と支配文明の宗教と密接した医療、支配階層の思惑と所属集団の利益、個人的な愛情とやさしさなどなど、つい、現実世界の混乱と引き比べたくなりながら読んでしまいました。上質のファンタジーは、時に現実世界の行末を暗示させるものですね。

さっそく、『鹿の王』も読み返してしまいました。ホッサル氏、引き伸ばしていたモラトリアム期から、腹を括る時が訪れようとしていますので、この世界の今後がまた、続編として書かれることをゆったりとお待ちしています。